ある日、突然それが空から降ってきた。それは緑色のぐにゃぐにゃしたものだった。なめくじのように動き始めたかと思うと、走っている車に跳びついて、どんどん溶かしてしまった。そいつらは近くにあった工場や発電所を皮切りに、家も、道路も、人も、ありとあらゆるものを溶かしていった。
大統領は周辺の住民を避難させ、それを退治するために軍隊を送った。まず最初に焼き払ってしまおうとしたが、そいつらは死ぬどころかどんどん増えていった。戦車や戦闘機での攻撃など全く効かない。逆に、何台か戦車が溶かされてしまった。熱に強いなら寒さに弱いかもしれないということで、上空から大量の液体窒素をばらまいてみた。しかし、やはり結果は同じ。なめくじに似ているということで塩もまかれたが、効き目はなかった。
あれは他国の新兵器に違いない、と云い出す者もあった。だが、やがてそうでもないことがわかった。そいつはついに世界中へ広がったのだ。核兵器を使った国もあったが、それでもやつらは死ななかった。そしてついに世界中の都市を溶かしてしまった。生き残ったわずかな人々も、やがて死んでいった。
素晴らしい文明を全て溶かし尽くしてしまうと、その緑のなめくじは自分で溶け始めた。やがてそこから植物が生え、最後、地球は緑に覆われた。
しばらくして、この地球の上空に一台の宇宙船がやって来た。その乗組員の一人は笑顔でこう云った。
「成功ですね。スモッグや放射能であんなに汚れていたこの星も、エヌ博士の発明でこんなに美しくなった……」
(1992年4月執筆/2005年8月3日改訂・初掲載)